雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜

3章:「焦燥感…」

婚姻届を提出し、晴れて悠翔さんと夫婦になり、順調に結婚生活を送っている。
悠翔さんは偽装結婚なのに、私に結婚指輪を渡してくれた。
不思議だ。自分の薬指に指輪が嵌められているのが。
キラキラ輝くダイヤが綺麗で。私が悠翔さんのお嫁さんになれたのだと実感することができる。
私にはよく分からないが、きっとこの婚約指輪はダイヤがついているので、そこそこ良いお値段がするはず。
こんなに良い指輪を私がもらってもいいのだろうか。こういうのは本命ができた時にすればいいのに。
なんてことを思いながら、内心嬉しく思っている自分もいて。ここは素直に喜んでおくことにした。
きっとこんなに素敵な指輪を渡してもらえるのは人生で最後かもしれないから。
だからこそより大切にしようと誓った。悠翔さんが私に渡してくれた指輪だから。
そんな指輪を指に嵌めながら、今日も悠翔さんの妻を演じる。

「それじゃ奈緒、仕事に行ってくるな」

悠翔さんは毎朝、必ず私に声をかけてから仕事へと向かう。
そんな悠翔さんに私は、「行ってらっしゃい」と言って見送る。
すると悠翔さんは、「行ってきます。お弁当、楽しみにしてる」と言い残して会社へと向かった。
悠翔さんは私と契約結婚をしてから、お弁当を持っていくことになった。
悠翔さん曰く、結婚しているのに愛妻弁当を持って行かないと不審がられるとのこと。
そう言われてしまえば、私は決められた契約に従うのみなので、お昼のお弁当を用意するだけだ。
ついでに自分の分のお昼ご飯も一緒に準備すればいいだけなので、そんなに手間はかからない。

悠翔さんを見送ったら、私の仕事でもある家事を始める。
家事は契約で私の仕事と定められているので、契約を反故にするのは契約違反だ。
違反だと見做されたら、私の居場所がなくなってしまう。
それは困る。私にはこの生活が大事だ。絶対に手放したくはない。
契約内容を忘れないように、定期的に契約書の内容を確認している。
解除されるか・されないかの不安は、常に付き纏っている。この結婚が契約結婚だから。
それにこの契約結婚の契約期間が定められていないので、いつか突然契約を打ち切られる可能性だってある。
悠翔さんがそんなことをしない人だと信用しているが、いつか悠翔さんに本命ができたら私はお役御免だ。
そんな不安が心を苛む。私の居場所が永遠ではないと分かっているから。
だからこそ少しでも長く契約期間を延ばせるように、私は契約を守ることに徹している。
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