雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜

5章:「過去と今…」

石動さんと会ってから、ずっと私の頭の中で繰り返し再生されている。
そのせいで変に意識してしまっている。上手く悠翔さんと接することができない。

「奈緒、帰りにプリン買ってきたけど食べる？」

変な接し方をしても、悠翔さんは変わらずに優しい。
その優しさが今は心に染み渡る。どんどん悠翔さんへの想いが膨らんでいく。

「ありがとうございます。いただきます…」

悠翔さんは私の変な態度から私の気持ちに気づいているのだろうか。
もし気持ちに気づいた上で優しくされているのだとしたら、悠翔さんはどんな気持ちで私に優しくしてくれているのだろうか。
同じ気持ちだったら嬉しい。でも同じ気持ちではない気がする。
そんな気持ちを胸に抱えたまま、悠翔さんの傍に居るのは辛くて。思わず気持ちが溢れ出しそうになった。

「奈緒、プリン美味しい？」

悠翔さんが買ってきてくれたプリンは、以前私が倒れた時に買ってきてくれたプリンだ。
私にとっては思い出のあるプリンで。悠翔さんにとってはこのプリンに思い出はあるのだろうか。
悠翔さんの気持ちが気になる。でも気持ちを聞くことはできない。この気持ちがもどかしい。

「美味しいです。またこのプリンが食べることができて嬉しいです。ありがとうございます」

「いえいえ。俺としてはこのプリンを食べたことを覚えていてくれたことも嬉しいし、奈緒が美味しそうに食べてる姿を見ることができて幸せだよ」

忘れるわけがない。あの日のことは絶対に…。
寧ろ悠翔さんが覚えていてくれたことの方が意外だった。
それに美味しそうに食べている私の姿を見るのが幸せって…。
悠翔さんに見られてるのかと思うと、途端に恥ずかしさが込み上げてきた。

「あんまり見ないでくださいね？恥ずかしいです…」

「恥ずかしがってる奈緒も可愛い」

好きな人に可愛いと言われて、私の心は急激に跳ね上がった。
上手く気持ちを隠せそうにない。表情から気持ちが滲み出てしまう。

「か、可愛いなんて…、もう揶揄わないでください」

「揶揄ってなんかいないよ。本当に可愛いと思ったから言ったんだよ」

嘘だ。絶対に嘘だ。
嘘じゃないと私が困る。どんどん悠翔さんのことを好きになってしまうから。


「可愛い奈緒のせい。あまりにも奈緒が可愛い過ぎるからつい…」

手の甲で口元を隠しながら、悠翔さんは恥ずかしそうにしていた。
つまり悠翔さんは本心で私のことを可愛いと思っているということになる。
信じられない。本当に悠翔さんが私のことを可愛いと思っているなんて…。
でも嬉しい。今すぐにでも自分の気持ちを伝えてしまいたいほどに。