雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「喜んでもらえてなによりです。あの…、実は手土産もありまして」

キッチンの奥の方に隠しておいたドーナツ屋さんのドーナツが入った箱を取り、悠翔さんに見せた。

「ドーナツ屋さんの新作が気になったので買ってきました。良かったら夕飯後、デザートに一緒に食べませんか?」

何も考えずに自分が食べたいからという理由だけで選ぶなんて安直すぎた。
デザートならもう少し軽めなものにしておけば良かったと後悔している。

「え?まじか?俺もずっと気になってから嬉しい」

心配は杞憂に終わった。悠翔さんは喜んでくれた。

「それなら良かったです。夕食後の楽しみにとっておきましょう」

今日はとても気分が良い。本当に良い一日を過ごした。
このまま幸せな時間が続くと思っていた矢先の出来事だった。
悠翔さんのスマホが鳴った。悠翔さんはスーツのポケットからスマホを取り出したが、そのままスマホを再びポケットの中に戻した。

「奈緒、今日の夕飯は何?」

スマホの着信音が鳴り響いたまま、悠翔さんは気にも留めずに話を続ける。

「あの…、それよりも電話が鳴っているみたいですが、出なくて大丈夫なんですか?」

いつもなら踏み込まない。悠翔さんのプライベートなことに踏み込むのは違う気がして。
でもさすがに気になる。いつも電話がかかってきたらすぐに応じる悠翔さんが応じないから。

「あぁ、大丈夫だ。迷惑電話だから」

悠翔さんが嘘をついていることは、悠翔さんの表情を見てすぐに気づいた。
私の前で出られない人からの電話ということは、つまり女性からの電話に違いない。
あくまでこれは私の推測なので断定できないが、悠翔さんの様子がおかしいのでほぼ間違いない。
私のことなんて気にせずに出ればいいのに。他の異性と関係を持つことは契約で禁止されているが、電話に応じるくらいなら問題ない。
勘ぐりたくないのに、変に勘繰ってしまう。そんなに隠したい相手からの電話だったのかな?と…。

「そうでしたか。困りますね。最近、迷惑メールや電話が多発してますから」

悠翔さんの嘘に合わせた。そうしないと自分を保てそうになかった。

「そうだな。本当に困ったものだ」

この時はこれで終わりだと思っていた。
でもまさかこの後、この電話がきっかけで悲劇が起きるとはまだこの時の私は知らないのであった。
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