雨はまだ降り続いている…〜秘密の契約結婚〜
「それで奈緒、夕飯は何?」

これ以上この話には触れるなと遠回しに悠翔さんに言われているような気がして。ここでこの話は終了にした。

「ひじきの煮物と鮭と味噌汁ですよ」

「やったー。すげー楽しみ」

そのまま電話の件はなかったことにされた。私の胸の中はモヤモヤしていた。
この胸のモヤモヤが解消されることがないまま、次の日の朝を迎えた。
昨日のことがまだ胸の奥に引っかかったままでいる。どうも釈然としない。
それでも私にはこれ以上踏み込む権利はないので、聞く権利はない。
となると何もなかったかのように振る舞わなければならない。昨日のことは忘れて、悠翔さんに普通に接することにした。
気持ちを切り替え、リビングへと向かった。朝食の準備をするために。
リビングの扉を開けると、先に悠翔さんの方が起きていた。

「悠翔さん、おはようございます。先に起きていたんですね。遅くなってすみません…」

「奈緒、おはよう。奈緒が謝る必要はないよ。俺がいつもより早く目が覚めただけだから」

悠翔さんの顔を見ると、クマができている。どうやらあまり眠れなかったみたいだ。

「そうだったんですね。急いで朝食を作りますね」

悠翔さんが眠れなくなるぐらいの相手からの電話。あまり考えないようにしていたけれど、もしかして…。
昨日からずっと悠翔さんの様子がおかしかったので、その可能性は高い。
どうか私の嫌な予感が外れていますように。今は心の中でそう願うしかなかった。
嫌な予感を忘れるために朝食の準備に集中した。集中することで忘れることができた。
悠翔さんを遅刻させるわけにはいかないので、ちゃんと朝食の準備ができて安心した。

「お待たせ致しました、朝食が出来上がりましたのでどうぞ」

悠翔さんに食べてもらうために、ダイニングテーブルまで運んだ。

「ありがとう。いただきます…」

私が運ぶと、悠翔さんはすぐに朝食を食べ始めた。
すぐに食べ始めたのを見て、私はなんだか安心した。
悠翔さんは昨日何もなかったかのように普通に振る舞っているが、明らかに様子がおかしい。
なのに普通に振る舞おうとしている悠翔さんが逆に心配で。何があったのか気になる。
もし私の嫌な予感が的中しているのであれば、私のことなんて気にしなくてもいいのに。
眠れなくなるぐらい相手のことが気になっているのに、無理してこの結婚生活を続ける理由なんてない。
でも悠翔さんは今こうして私の傍に居る。今の私には悠翔さんが傍に居てくれることに縋るしかなかった。

「ごちそうさま。奈緒、今日も美味しかったよ」

悠翔さんは食べ終えると、いつも通りに美味しいと言ってくれた。

「それなら良かったです。片付けますね」

食べ終わったお皿などを私がシンクまで運び、洗い始めた。

「それじゃ俺は会社に行ってくるよ。行ってきます…」

いつもなら私が見送るまで待っていてくれるのに、今日の悠翔さんは待たずに行ってしまった。
いつもより早く起きていたから時間に余裕があったはず。それなのにも関わらず急いで会社へ行ったということは、私と一緒に居るのが気まずいからだ。
悠翔さんに避けられているという事実が苦しかった。今まで悠翔さんに優しくされていた分、心に深く突き刺さった。
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