救う気ゼロの大魔法使いは私だけに夢中。~「迎えに来るのが遅くなってごめんね」と助けてくれた見知らぬ美形に話を合わせてみたら~

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 大きな窓を開いて、サブリナはバルコニーへと進んだ。

「……こんばんは。良い夜ね」

 ひんやりとした冷たい空気に、うっすらと見える月明かり。そこに浮かび上がる、恐ろしい魔物の姿。

 魔物は知性を持つ者も居るようだが、それは人に良く似た人型をしているらしい。目の前に居る獣型の魔物は、サブリナの言葉を理解出来ただろうか。

 ぬらりと光る身体を持った、蜥蜴型の魔物だった。二足歩行をして、邸二階にも目が届くくらいに大きな魔物。

 それは、自分の命を奪う死神のような存在だというのに、サブリナは恐怖も何も感じなかった。

 諦めでも何もない。これでルーファスが命を繋げる時間が稼げるのなら、これは意味がある死であると覚悟を決めていた。

(それほど、大きな魔物でもなかったわね。目だけしか見えなかった時は、大きく見えたけれど……時間を掛けて食べてくれれば良いけれど……)

 王が付けてくれている護衛騎士は何人か常駐しているはずなのに、ここにはまだ来ない。他にも魔物が居て、彼らは足止めされているのかもしれない。

 それでもまだ希望はあった。魔界の扉はまだ完全には開いていない。だから、ルーファスさえ目覚めればなんとかなるのだと。

 魔物は不思議そうに首を傾げ、じっと自分を見つめるサブリナを見ていた。恐れをなして逃げ惑う人間ならまだしも、自分へと微笑みかける余裕のある人間など珍しいかもしれない。

(なんて、美しい目なの……そうね。彼らだって、私たちが肉を食べているのと同じ感覚よね)

 黒い目には月光が映り、なんとも清らかな存在に見える。サブリナはゆっくりと目を閉じて、すぐそこにある死を待った。

 あの鋭い爪が身体を切り裂くのか、それとも、牙でそのまま噛み砕かれてしまうのか。

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