月が、綺麗だったんだ
 家が同じ方向にあるため、そのまま並んで夜道を歩く。


 夏は終わったはずなのに、まだ生ぬるい風が吹いている。
 なんとも不快な風。
 秋になったんだから、涼しい風が吹けばいいのに。


 まあ、過ごしやすい夜だったらアイスを買いに行かなかったし、そうしたら琉唯に再会しなかったから、あまり文句は言えないけど。


「じゃ、ゴチになります」
「どーぞ」


 私は袋を開け、アイスを取り出した。
 お行儀悪いのはわかっているけど、外で、それも人のお金で食べるアイスは美味しい。


「こんな夜中にアイスとか、太るんじゃね」
「うるさいな」


 琉唯は乾いた笑いを零しながら、タバコを一本取り出した。
 そしてタバコを咥えるその姿が、アイツと重なった。


 琉唯に気付かれる前に視線を逸らす。


「……歩きタバコはやめときなよ」


 アイツのことなんて思い出したくなくて、私はもっともらしいことを言った。
 本当は、こんなことを言う優等生キャラじゃないんだけど。


「だな。あー……俺もなんか買えばよかったわ」


 急な真面目キャラには触れず、タバコをジーパンの後ろポケットに仕舞い、空を仰いだ。


 私はまた、一口齧る。


 人が一人入れるほど離れてはいないけれど、近すぎもしない、私たちの距離。
 その間を、再び生ぬるい風が通った。
< 2 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop