虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
秘書らしい女性の案内で応接室に入ってきたのは小柄な老人だった。
「やあ、岳.久しぶり」
枯れ木のような外見とは裏腹に、かくしゃくとした動きと明瞭な発声だ。
その姿を見て、真矢が勤めていたころ明都ホテルグループの社長だった人だと思い出した。
つまり岳の祖父で、今は会長職になっている。
もっと真矢が驚いたのは、その会長の後ろから陽依と叔父夫婦の姿が見えたことだった。
「えっ?」
真矢は小さな声を上げてしまった。
いつものように叔母と陽依は上品な和装だ。
しかも高級な加賀友禅の訪問着を着ている。特に陽依の着物は、クリーム地に季節の花が描かれている華やかな一点物と思われる。
陽依が応接室に入ってきた瞬間に、部屋中がパアッと明るくなったように感じられたくらいだ。
「こちら、鶴田陽依さん。友人のお孫さんなんだ」
会長はニコニコ顔で陽依を紹介するが、叔父夫婦のことには一切触れない。
叔父夫婦もまた、一言も言葉を発することなくただ頭を下げている。
どこか異様な雰囲気だ。
その嫌な空気をスパッと切ったのが岳の一声だった。
「会長、ご紹介します。俺の婚約者、鶴田真矢さんです」
「鶴田真矢と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
真矢はゆっくり立ち上がると丁寧に礼をした。
地味な恰好ばかりだった真矢は、そこにはいない。
上品なメイクと艶やかな髪。質のいいスーツを着て、都々木岳の婚約者らしく優雅に微笑んでいる。
陽依は真矢を見て驚いたのかずいぶん目を大きくしているし、叔母は口をポカンと開けている。叔父は無言でうつむいた。
おそらく陽依も叔父夫婦も、明都ホテルグループに出向した真矢は、おしゃれもせずがむしゃらに働いていると思っていたのだろう。
「君が、あの」
会長は何か思うところがあったのか、ただ真矢の顔をじっと見ていた。