虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
かつて甘味がご馳走だった時代の名残か、和文字は直径七センチくらいはある大ぶりな菓子だった。
だが最近はカロリーを気にする人もいるし、女性には食べずらい。
真矢がふた口くらいで食べられるくらいのものを作ってみたらと提案したことから、和真が工夫して小さめのものを売り出したのだ。
和文字堂ではお菓子のパッケージを変えたり日持ちのする包装を導入するなどして、今ではネット通販も始めている。
それがきっかけになって、和真とは和菓子だけでなく町の観光についてもよく話すようになった。
和文字堂の後継ぎとして、和真はこの町の若い後継者たちと仲がいい。
ひとりでも多くの観光客に訪れてもらえるようにアイデアを出し合っている仲間だからと、真矢も紹介してもらった。
今や和真は、真矢の力強い味方でもある。
「じいちゃんが、まーちゃんも引取ればよかったって言ってるよ」
和真が小声で耳打ちするが、真矢は慌てて周囲を見回した。誰かに聞かれたらとんでもないことになる。
「和真、ダメだよ」
対鶴楼の跡継ぎを巡って難しい立場の今は、なるべく周囲に誤解されたくなかった。
和真を引取ってくれた遠藤家でそんな話が出ているなんて、まるで真矢が鶴田家で大事にされていないようにも受けとれる。
さすがに和真に鶴田家の経営状況や遺言のことは話していないが、狭い町のことだからなにか察しているかもしれない。
「それより和真、明日のツアーよろしくね」
「バッチリ用意しているよ」
対鶴楼の宿泊客の中には、外国からの観光客もいる。
この町にわざわざ来るということは、大都市ではなく地方都市で古き良き日本を体験したいという客層だ。
他所ではできないことを求めていると聞いて、真矢が和文字堂の見学ツアーを思い立った。
和真に相談したら、真矢が通訳として付き添うことで引き受けてくれたのだ。
職人たちの技を見るだけでなく、実際に自分の手で菓子を作って味わえるから前評判は上々だ。
人気が出るようなら、観光客の受け入れ態勢を整えて継続していきたいと和文字堂も乗り気になっている。
季節ごとに様々な菓子に変えるなどして、国内からの観光客にも広げていけるだろう。