虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


ふたりで翌日の打ち合わせをしていたら、ふいに声をかけられた。

「面白い企画ですね。よかったら参加させてもらえませんか?」

土産物のコーナーに、いつのまにか岳が来ていた。
どうやら真矢たちの近くで、外国人観光客が和文字堂を見学する話を聞いていたらしい。

「ご予約のお客様の許可をいただけるようでしたら、どうぞご参加ください」

真矢が断るより早く、和真が答えてしまった。
和文字堂としては、ひとりでも多くの人に興味を持ってもらいたいのだろう。

「ぜひ、頼んでもらえないかな」

「では、お客様に伺ってからお返事させていただきます」

真矢は仕方なく確認をとることにした。
岳は眼鏡までかけて、明都ホテルグループの御曹司という身分を隠しているようだ。
真矢が明都ホテルで働いていたことを覚えているとは思えないが、なるべく会いたくなかった。
それでもお客様には違いないから、希望を叶える努力はするべきだろう。

もうひとり参加希望があることを外国人観光客に伝えたら快く受け入れてくれたので、真矢は岳に伝えるために桐の間に向かった。

「失礼いたします」
「どうぞ」

黒縁メガネの岳は、何度見ても慣れない。
応接セットに座ったまま、岳はパソコンの画面を見ていた。ほかの客は姿が見えないので、出かけたのだろう。

「先ほどのお話でございますが……」

参加しても大丈夫だと岳に伝えたら、とても嬉しそうだった。
和菓子に興味があるようには見えないが、なにか考えがあるのかもしれない。

「それでは明日、よろしくお願いいたします」
「こちらこそ、ありがとう」

真矢にはまだまだ仕事があるから、都々木岳のことばかりにかまっていられない。
仲居のお仕着せから事務職の制服に着替え、フロント奥の事務室へ急いだ。




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