虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます




岳がツアーに参加している間、スタッフは朝から自由行動にした。
部屋で調べものをしてもいいし、この周辺の見どころを探しに出かけるのもいいだろう。

岳は待ち合わせ時間より早めに部屋を出たが、ちょうど和菓子作りの見学に行く外国人の観光客たちと出くわした。
飛び入りで参加させてもらうことになったお礼を言うと、彼らはとても楽しみにしていると話してくれた。

雑談しながらロビーに行くと、昨日のような仲居姿ではない真矢の姿が見えた。
どうやら対鶴楼の事務スタッフの制服らしい。
細かいチェックのベストに紺のスカートは、小柄な真矢によく似合っている。
髪も下ろしているから、着物姿よりずっと若く見えた。

真矢のそばには、昨日見かけた若女将が着物姿で立っている。
きれいな花を抱えているからか、周囲を圧倒するような華やかさだ。

だが遠目からでも、若女将の真矢の対する視線に刺々しさを感じる。聞こえてくる言葉にも冷たい響きがあった。
ふたりの様子を見ていたら、若女将の視野に岳が入ったらしい。パッと表情を変えて声をかけてきた。
岳が若女将の表情の変化を見落とすことはなかった。

岳は様々な立場の人と応対することがある。
世の中には相手によって態度を変えたり、同性と異性とでは言葉使いが変わるという器用な人もいる。
仕事でなら付き合うことができるが、プライベートでは受け入れられない。
若女将が祖父の決めていた花嫁候補だとしても、岳が彼女を選ぶことはないと決めた瞬間だった。



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