虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
ほんの少し言葉を交わしただけだが、真矢からは媚びた様子も、自分こそはと売り込んでくるような強引さも感じられない。
このまま見送るのが少し残念な気持ちになっていたら、真矢がとんでもないことを言いだした。
「都々木部長、私にがんばれって言ってもらえませんか?」
岳を男性として意識するのではなく、ただの職場の上司と思っているようだ。
それも真矢らしいと、その言葉を岳は真剣に受け止めた。
「これからも、あなたらしくがんばって」
「ありがとうございます」
励ましたというのに、真矢がポロリと涙をこぼすのが見えた。明るく見せていても、心の中に重い荷物を抱えているのかもしれない。
彼女の気持ちを思うと、岳の心の奥に不思議な感覚がわき上がってきた。
(ひとりにさせたくない)
真矢は泣き顔を隠そうとしたが、このまま帰すのが忍びない。
そんな思いがこみ上げてきたが、こちらに背を向けている真矢がいじらしい。
だから岳は、そっと真矢の背に触れた。わずかでも真矢の支えになりたかった。
◇◇◇
真矢とは、この一夜だけの縁だろうと岳は思っていた。
まさか再会するとは想像もしていなかったし、自分が買収しようとしている対鶴楼で働いていたのは想定外だ。
(予想できないこともあるんだな)
自分では考えもしなかった偶然や、必然の出会いというものがあるとしたら。
このタイミングで真矢と再会したことに、岳はなにか意味があるような気がしていた。