虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
交通量がぐっと少なくなっている時間とあって、すぐにホテルの近くまでやってきた。
岳がホテルから少し離れた場所に車を止めた。
「約束してくれないか」
「え?」
「無理をしないこと。困ったときには、俺を頼ってほしい」
「都々木部長」
「部長はやめてほしいな」
もう君の上司じゃないんだと言いながら、岳の真剣な目が真矢を捕らえている。
「君ひとりじゃ出来ないことでも、なにかの形で力になれるかもしれない」
「ありがとうございます」
真矢を思いやってくれている気持ちが伝わってくる。
だが、あくまでも仕事があるから大切にしてくれているのだろう。
今は運転席と助手席という手を伸ばせば届く距離にいたとしても、岳は真矢にとっては遠い存在に変わりない。
「気をつけて」
「はい。お世話になりました」
いつも岳と別れるときは、胸の奥にチクリと痛みが走る。
それが別れがたい、離れがたい気持ちだとわかっているが、言葉にできない。
真矢は車から降りてドアを閉めた。
こちらをじっと見ている岳の視線に、甘やかな熱を感じる。
(ダメ。思い上がっちゃいけない。勘違いしちゃいけない)
岳は明都ホテルグループの御曹司だ。この先、岳たちが対鶴楼の買収計画をとりやめて支援策をまとめたとしても、まだ予断を許さない。
真矢は背を向けてホテルに向かって歩き出す。
(仕事だけの関係だから、なんの感情も抱いてはいけない)
そう自分に言い聞かせながら、真矢は生暖かい夜風を感じていた。