虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
地下の駐車場に下りて岳が歩み寄ったのは、さっきの黒塗りの乗用車ではなく濃紺のSUVだ。
どこに乗ろうかと迷う間もなく、岳は助手席のドアを開けてくれる。
親しい間でもないのにいいのかなと思ったが、遠慮しつつ助手席のシートに座った。
東京駅近くのどこに泊っているのか聞かれたので、日本橋にあるホテルの名を告げる。
チェーンのビジネスホテルだから、岳はすぐに場所がわかったようだ。
「次回東京に来るときは、ぜひ明都ホテルに泊まってくれ」
せっかくならいつもとは違う体験した方が、今後の仕事に生かせるはずだと岳は言う。
「はい。そうさせていただきます」
「これから仕事の話で何度か対鶴楼へ行くだろう。今度からは君に直接連絡入れさせてもらうよ」
「いえ、私は話し合いの席にいない方がいいと思います」
「どうして?」
「私は明都ホテルに勤めていましたし、意見が言える立場ではありません。叔父たちはきっと嫌がります」
明都ホテルグループの回し者だと思われたくないし、ただの庶務担当の真矢には会議に出る力はない。
「そうか。同族会社のやっかいなところだな。君もやりにくいだろう」
対鶴楼や町の将来のために、同じような意見を持つ人たちと交流してはいるが、熱い気持ちだけではどうすることもできない。
「いずれ君の案を取り入れた支援策をまとめるつもりだ」
「本当ですか!」
岳から「支援」という信じられない言葉が飛び出した。買収という計画を変更してくれるかもしれない。
明都ホテルグループが資金援助してくれたらとずっと願っていた真矢は、思わず大きな声をあげてしまった。
「少し時間をくれ。計画をまとめるときは、君にも声をかけるから」