虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


「対鶴楼の買収計画を支援に変更するつもりだ。もう社長には話している」
「この間、報告してたものね。賛成してもらえたの」

「もともと俺に任された事業だ。新しい支援策を早急にまとめるつもりだが、彼女のアイデアも生かしたいと思っている」

「まさか、それだけで彼女をここに呼んだの」
「ああ」

華怜は意味ありげに岳を見ている。勘の鋭い妹に、岳は手を焼きそうだなと感じていた。
笑いをこらえているのか、華怜は肩を震わせながらドアに向かって歩き出す。

「そういうことにしといてあげる」

「仕事の話は?」

「あるわけないじゃない。彼女に会ってピンときたから、偵察に来たの」

「いい加減な話をお父さんたちにするなよ」

岳はとっくに家を出て、自分で買ったマンションで暮らしている。
華怜は未だに実家で暮らしているから、両親に妙な話をされては困るのだ。
さっさと出て行った華怜からの返事は聞こえなかった。

「あいつ、引っかき回す気か」

やれやれと思いながら、岳は別れ際の真矢を思い出していた。
その澄んだ瞳に、岳が映っていた。お互いが同じ気持ちを抱いている、そんな予感がした。
思わず手を伸ばして艶やかな髪に触れてしまいそうになったが、それはできなかった。

(真矢は仕事で関わる相手だ)

真矢は対鶴楼の経営を立て直そうと、一生懸命に頑張っている。
それを知っているのに、自分の欲望だけで手を出していいはずがない。

岳が気持ちを抑え込んだのが伝わったのか、真矢もみるみるうちに冷静になっていった。
車を降りて歩き出した真矢の背は、まるで岳を拒絶するかのように張りつめていた。



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