虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
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眠れぬ一夜を過ごして古風な町の駅に降り立つと、真矢はホッとした。
目まぐるしかった東京での時間がうそのようだ。
土産を持って対鶴楼へ行くと、日曜日には新たな宿泊客が少ないからか閑散としていた。
本来ならもう少し稼働率を上げたいし、せめて休日には結婚式や宴会を受け入れたいところだ。
だが叔父たちは格式を重んじているから馴染み客の希望しか受け入れず、一般客に向けてPRはしていない。
あれだけの庭があるのだから、せめて婚礼の前撮りに貸し出せたらと真矢はため息をついた。
(老舗という、目に見えない財産を持っているのにもったいないな)
叔父はいつ話しかけても黙り込んでしまうので、経営を立て直す気はないのかもしれない。
わざわざ岳たちが泊まりに来たのは、こんな対鶴楼の現状を探るためだろう。
あっさり明都ホテルグループの買収案を受けるかと思ったが、叔父は保留にしているらしい。
これからどうするつもりなのか、真矢には見当もつかなかった。
日曜日でも岳は仕事をしているだろうかと、つい真矢は考えてしまう。
(さすがに今日はお休みしてるかも)
国内外を飛び回っている岳が家でくつろいでいる姿は想像できないが、休日くらいはのんびりしてほしい。
真矢が事務所に入ると、このところすっかり老けた叔父が言葉少なに出迎えてくれた。
「帰りました。お休みありがとうございました」
「ああ」
叔父の目元には隈があるし、かなり気落ちしているように見える。買収を受けるか断るのかを考えたら、眠れていないのかもしれない。
真矢に何も話しかけてこないから、明都ホテルグループから買収交渉を受けたことを伝える気はなさそうだ。
経営難を乗り越えるいい方法があればいいが、借金を肩代わりしてくれる企業なんて簡単に見つかるわけがない。
このまま借金返済のめどが立たなければ、対鶴楼はどうなってしまうのだろう。
(なんとかしないと)
岳から聞いた支援が受けられるかもしれない話は、まだ叔父にも話せない。
これからのことを思うと気が重かった。