虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


岳の車で連れてこられたのは静かな住宅街の一角だった。ここは岳が住んでいるマンションだという。
いきなり自宅なので戸惑ったが、こんな時間に外で会うほうが悪目立ちすると言われたので納得する。
マンションはセキュリティーもしっかりしているし、住人以外は駐車場からエントランスに通れないらしい。

真矢は案内されるままリビングルームに入った。

「コーヒーでも淹れようか」
「いえ、お気遣いなく」

黒い革張りのソファーに向きあって座ると、岳は何があったのかを話すように促してくる。

真矢は高杉建設の社長とお見合いをさせられたこと、女将から対鶴楼のために結婚しろと言われたことを正直に話した。

「相手は再婚?」
「ええ。お嬢さんが対鶴楼まできて、すごく怒っていました」

そのうえ真矢と結婚したら高杉建設が対鶴楼を援助する約束しているらしいと、女将から聞いたままを伝える。
岳は黙って真矢の話を聞いてくれたが、おしまいには呆れ果てた顔になっていた。

「女将はそんなことまで言いだしたのか」

岳はしばらく考え込んでいた。

「なにか違和感があるな、この話」

そう言われて、真矢も冷静に考えてみた。
対鶴楼の借入金を高杉建設の資金で補填したとして、今後の経営が順調だという保証はない。どちらにしても高杉建設に、そこまで旨味はなさそうだ。


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