虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます
「相手は市議会議員か。もしかしたら庭園を市に寄付させるとか売却させることを考えているのかもしれないな」
ふと岳が口にした言葉を聞いて、真矢はハッとした。
対鶴楼の維持費用の中で、庭にかかる金額は突出している。
たとえばそこを市の公園にして、対鶴楼を旅館ではなく市の施設にするとしたら。
高杉建設なら、庭園や建物の使い方をいくつでも考えられるだろう。
そこに対鶴楼の存続はないはずだ。叔父たちは高杉にいいようにはめられたのだろうか。
「高杉建設の社長が、結婚だけを条件に対鶴楼を援助するとは考え難いんだ」
岳は厳しい顔で言葉を続ける。
「君との結婚に、大きなメリットがあれば別だが」
「メリットですか?」
もしかしたら高杉は、祖父の遺言の内容の一部を聞いたのではないだろうか。
あの狭い町では、ルールより人間関係が優先される土地柄だ。対鶴楼の顧問弁護士と高杉がつながっていたら、あり得るかもしれない。
高杉が「陽依か真矢のどちらか後継者になる」という部分だけ知ったとしたら、今回の縁談に真実味が増してくる。
後継者の夫になれば、あれだけの土地を好きなように動かすことができるだろう。
叔母は陽依の結婚相手に、再婚で子持ちの高杉では納得しないはず。高杉がそう考えたなら、次に狙うのは真矢だ。
真矢なら手に入れやすいと考えたのではないだろうか。
「どうした?」
真矢は頭の中で様々な考えが渦巻いていた。悩みすぎたせいか頭痛がするし、さっきまで冷えていたはずの体が熱くなってきた。
「い、いえ。大丈夫です」
ぼんやりしていたことに気がついて、慌てて岳に視線を戻した。
何の関わりもない岳に、祖父の遺言のことは話せない。
叔父たちは高杉の思惑に気がついていないのかもしれない。
大事な陽依に跡を継がせるために邪魔な真矢を追い出そうとしたはずが、逆に自分たちの首を絞めている。
真矢はこんな鶴田家のごたごたした内情に岳を巻き込んで、申し訳なくなってきた。