虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます


「えっと、あの、私とですか?」

「そうすれば君は高杉と結婚しなくていいし、俺は高杉建設の思惑を排除して、自分の思い通りに事業計画を進められる」
「でも」

それが真矢との婚約につながる理由が、どうしてもわからない。
岳とは仕事上のかかわりはあるが、恋愛関係もなければ、そもそも付き合ってもいないのだ。

「君は最強のビジネスパートナーだ」

ますます真矢は混乱してきた。
対鶴楼を援助してもらうためには、岳のビジネスパートナーになることと、結婚が必要ということだろうか。
それとも形だけ婚約したことにして、女将たちを偽るということだろうか。

岳に返事をしなくてはと思うが、頭はガンガンしてきて考えがまとまらない。どちらにしても断るべきだと思った。

「こんなお話、お受けできま……」

きちんと断ろうと思って立ち上がったら、ふいに目の前が真っ暗になった。

「真矢!」

ぐらりと体が傾いて、倒れると思った瞬間に力強い腕に抱きとめられた。

(名前を呼ばれてる……)

頭が割れそうに痛いのに、真矢が気になったのは岳に名前で呼ばれたことだった。

「すぐに医師を呼ぶから」
「あ、だいじょ」
「君の大丈夫はあてにならない」

岳はひょいと真矢を抱き上げてどこか別の場所に運んでくれた。
そこは柔らかなベッドの上だった。

頭を動かそうとしたら目が回る。じっとしていたら、額に冷たいタオルがのせられたのがわかった。

それからの記憶はあいまいだ。
医師の診察を受けた気がするし、チクリと注射の針の痛みを感じてからは眠ってしまったようだ。

時おり意識が浮上すると、そばに誰かがいた。
まぶたが重くて目が開けられないが、冷たいタオルの感触と唇にあてられたストローの固さは覚えている。

(誰? 看病してくれているの)

幼いころ、熱が出た真矢の手を母が握ってくれた思い出がある。
今、私を見守ってくれているのは誰だろう。気になっても、どうしても目が開けられない。
ただ、眠りたかった。目が覚めたら、すべてが夢だとわかるはずだ。








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