虐げられ続けた私ですが、怜悧な御曹司と息子に溺愛されてます

「あくまでも、今のところだ。君は仕事がしたいんだろう」

「はい!」

「支配人の許可ももらってある。君は対鶴楼から出向した社員として、俺の仕事を手伝うこと」

「わかりました」

「当分は、ビジネスが最優先だ」

これは仕事の延長だと強調すると、ずっと固い表情だった真矢が少しホッとしたように見えた。
この婚約が対鶴楼の支援策をまとめるための契約だと思い込んで、安心したのかもしれない。

だが、この契約こそが形だけのものだ。そもそも岳は真矢を手放す気はない。

いつもの岳なら、少々強引にでも話を進めていく。たとえ冷徹だと言われても、けして譲らないだろう。
だが、この契約は違う。真矢の気持ちを最優先して、時間をかけると決めている。

真矢はまじめだし、甘い言葉に惑わされるタイプではない。
真矢にとって今一番大切なのは、対鶴楼を守ることだ。そのために一生懸命になっている真矢を見守っていきたい。

いずれ仕事よりも岳の存在が一番だと思わせたいが、目の届く範囲にいてくれなくては困るのだ。

「父たちに婚約したと伝えている。だから、今日から堂々とここに住むといい」
「え? いえ、すぐに出て行きます。住むところくらい探しますので」

「支配人たちに見せつけないと、納得しないだろう」

同居すると言ったら、真矢はオロオロし始めた。
高杉との縁談を断る口実だと悟られないようにするためだと説明すると、やっと真矢も受け入れてくれた。



< 99 / 141 >

この作品をシェア

pagetop