神殺しのクロノスタシス7〜前編〜
「…大丈夫ですよ」

「えっ…」

イレースさんの心の中を読めば分かる。

彼女は、負けるつもりなんてない。

ここまで「自分は絶対に負けない」と強く思い込んでる人って、なかなか珍しいですよ。

「負けない」…って言うか。

「こんな九官鳥に負けてたまるか」という、半分くらいは意地みたいですけど。

…とはいえ。

今のイレースさんなら、何の心配も要らない。

「rhundet」

「rhundet」

向かい合った二人は、互いに同じ魔法を同時にぶつけ合った。

強大な雷と雷がぶつかり合い、凄まじい轟音と閃光が轟いた。

「うぅっ…」

天音さんが呻き、両手で耳を塞いで、その場に伏せた。

耳と目を塞いでいないと、この雷撃の余波で聴覚も視覚も歪んでしまうところだった。

僕は不死身だから大丈夫ですけど。

それよりも僕としては、何の罪もない、ルーデュニア市民が気の毒。

今頃、この凄まじい落雷の音を聞いて、嵐でも起きたのかと、窓に駆け寄って震えているだろうに。

大丈夫ですよ。ちょっと、その…意地と意地がぶつかり合ってるだけで。

…そして、その結末は。

「あ…あぁっ…」

天音さんは、絶望の呻き声を漏らした。

イレースさんは…その場に膝をついていた。

はーはーと、肩で息をしている。

この人…今の一撃に、自分の魔力の全てを注ぎ込んだのだ。

その結果、立ち上がることも出来ないほどに疲弊し、衰弱している。

だが一方、そのイレースさんの渾身の一撃を受けた、敵魔導師もまた。

「はぁっ…はぁ、はぁ…」

向こうは膝をついてこそいなかったが、ふらふらの状態だった。

両者痛み分け。満身創痍。

だけど…膝をついてしまった分、イレースさんが負けたと言えるだろう。

…今は。

「み…見たか…私の、じ、実力を…」

敵上級魔導師が、声を震わせるようにしてそう言った。

よくそんな満身創痍でイキれますね。

イレースさんがここまで食い下がってくるとは…明らかに、彼にとっても想定外だったようだ。

それでも、僅かな差だったとしても。

プライドの高い彼は、自分の勝利を誇らずにはいられなかった。

「こ、これが…キルディリア上級魔導師の実力だ。お、お前達には…とても敵わない…」

いや、めちゃくちゃ良い勝負してましたけど。

自分だってはーはー言ってる癖に、その自信は何処から?

「お…お、思い知ったか…」

とか言いながら。

ふらふらと千鳥足で、イレースさんに迫った。

まるで見せつけるように。イレースさんの前に、絶対的な壁として立ちはだかるように。

「イレースさんっ…!」

それを見た天音さんが、イレースさんを庇おうと、咄嗟に前に出ようとしたが。

僕は片手で、天音さんの身体を止めた。

「な、ナジュ君…!?何するの?イレースさんを助けないと…!」

「…その必要はありませんよ」

「えぇっ…!?何で?」

何で、って。決まってるでしょう。

勝敗は、まだ決していないからですよ。
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