神殺しのクロノスタシス7〜前編〜

side天音

ーーーーー…こちらは、キルディリア魔王国軍の本隊と戦っている、僕とイレースさんと、そしてナジュ君の三人。

令月さんとすぐりさんは、学生寮の方に飛ばされて。

多分、向こうで戦っていると思う。…無事なら良いんだけど。

今すぐ助けに行きたい。

…でも。

「イレースさん、大丈夫…!?しっかりして」

「私のことは放っておきなさい…。…時間の無駄です」

敵上級魔導師との戦いで、魔力を使い尽くしてしまったイレースさんは。

苦しそうに膝をつき、これ以上戦える状態ではなくなっていた。

こんなに極限まで魔力を失っていたら、命に危険が及ぶ。

少しでも楽にしようと、僕は回復魔法をかけたけど。

こんな時でもイレースさんは、気丈に振る舞っていた。

自分のことより、目の前の敵を倒すことを優先しろ、と。

…放っておきなさいなんて言われても、放っておくことなんて出来ないよ。

「でも、イレースさん…!」

「構うなと言っているでしょう。それよりも、残りの敵を…」

「そんなこと出来ないよ…!イレースさん、やっぱり…」

と、言いかけたその時。

「っ、な、何?」

「…これは…」

校舎をぐるりと覆っていた、分厚い魔法の壁が。

ガラスが割れるみたいな音がして、粉々に崩れ去った。

「…!なんということだ…。この壁を…!」

これはキルディリア魔導師の人達も、予想外だったらしくて。

壊された壁を見て、呆然としていた。

…キュレムさん達が、やり遂げたんだ。

良かった…!これで、学院長先生や羽久さんとも合流出来る。

急いで、校舎の中に。

…しかし。

「…陛下が危ない。全軍、総攻撃を仕掛ける」

司令官らしき敵上級魔導師が、そう指示を出した。

そ、総攻撃って。

「これはマズいですね。この数で総攻撃なんか仕掛けられたら、さすがにひとたまりもないですよ」

と、ナジュ君。

「どっ…ど、どう、し、」

「慌てなくて大丈夫ですよ、天音さん」

え?

「僕が奥の手を使って、時間を稼ぎます」

「な…ナジュ君?どうやって…」

…まさか。

ナジュ君の…奥の手って。もしかして。

「まさかっ…また、リリスさんの…『獣の女王』の力を…!」

「…それしかないでしょう?」

ナジュ君の奥の手。

それはつまり、ナジュ君の中にいる…魔物であるリリスさんの力を、その身に宿す。

これまでも、窮地に陥る度に…何度かそうすることによって切り抜けてきた。

だけど、あれは諸刃の剣。

魔物の力を、人間の身に宿す…それは非常に危険な行為だ。

肉体への負担は並みのものではなく、一般人ならあっという間に身体が崩壊する。

実際ナジュ君も、あの力を使う度に、肉体を酷く損傷している。

全身から血を噴き出し、内臓は全部破壊され、耐え難いほどの苦痛に晒される。

だから僕は、もう二度とあれをナジュ君に使って欲しくないのだ。
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