王太子に婚約破棄された地味令嬢ですが、病める時も健やかなる時も騎士団長から愛されるなんて聞いていません!
「失礼します」
 セリーナの視界はぐるっと動き、あっという間に馬の上へ。
 驚く暇もなく、騎士団長に抱えられるような、密着しすぎな体勢になってしまった。
「あ、あの、騎士団長様」
「どこでもいいので、つかまってください」
 そう言われても、一体どこに掴まるのですか?
 こんなふうに馬に乗ったのは初めてでどうしたらよいのかわからない。
 動き出した馬の揺れに驚いたセリーナは思わず騎士団長の服を掴んでしまった。
 騎士団長にグッと肩を抱き寄せられ、体勢が安定する。
 王宮の守衛も騎士団長のおかげでスルー。
 泣き顔も見られることなく、王宮から公爵邸まで帰ることができた。

    ◇
 
 セリーナが書いた完璧すぎる婚約破棄の同意書を見ながら、ダンヴィル公爵はリビングで盛大な溜息をついた。
「……つまり、あのバカ王太子は平民の女に夢中になって、おまえとの婚約を破棄したと?」
 バカだバカだと常々思っていたがここまでとはとダンヴィル公爵の本音が漏れる。
「オークウッド殿、娘を送ってくれてありがとう」
「当然のことをしたまでです」
「騎士団長様はオークウッド公爵家の方だったのですか?」
 オークウッド公爵家は代々宰相を務める名家だ。
 そんな方がいったいなぜ騎士を?
「スティーブンとお呼びください。スティーブン・オークウッドです」
 スティーブンはオークウッド公爵家の三男。
 将来は長男が宰相に、次男が領地管理をするため、おまえは好きなことをしていいと言われたので騎士になったと教えてくれた。
「なぜ危険な騎士を選ばれたのですか?」
「……10年前、王宮の庭園で迷子になった少女と出会いました」
 少女は背が低かったので薔薇の畝で建物がほとんど見えず、同じ道を何度もグルグルと歩いていた。
「出口に連れて行ってあげようかと言うと、少女は自分で頑張ると」
 疲れても泣くことなく懸命に道を探す姿を見ているうちに、家柄ではなく自分の努力で認められる騎士になろうと決めたのだとスティーブンはセリーナを見つめながら当時を懐かしそうに振り返った。
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