王太子に婚約破棄された地味令嬢ですが、病める時も健やかなる時も騎士団長から愛されるなんて聞いていません!

2.病める時も健やかなる時も

「10年前といえば、セリーナも王太子と婚約の日に薔薇の庭園で迷子に……」
「はい。その少女はセリーナ嬢です」
「私?」
 嘘でしょ。
 迷子になったなんて全然覚えていない。
「ダンヴィル公爵、不躾なお願いで申し訳ありませんが、俺をセリーナ嬢の婚約者にしていただけないでしょうか?」
 真面目な顔で急に変なことを言い出したスティーブンにセリーナは目を見開く。
「ま、待ってください。婚約破棄された傷物よりも、もっと条件のいいご令嬢はたくさんいます」
「セリーナ嬢が良いのです」
 ちょっと待って。
 急に何を言われているの?
 私がいい?
 そんなはずはない。
 地味で根暗な女だとアンジェラに言われたではないか。
 勘違いしちゃダメ、きっと婚約破棄されて可哀想だから励まそうとしてくれているだけ。
「……我が家と王家の間の取り決めを知っていて、その申し出を?」
 王家が果たせないのなら宰相家で面倒を見るので取り決めはそのまま継続にしてほしいという話であれば断るとダンヴィル公爵はスティーブンを見つめた。
「王家が約束を破ったのであれば、王家が責任を負うべきです」
「ならば、なぜ」
「10年前に婚約を申し込みたいと父に相談しました。ですが、すでに王太子と……。解消された今、申し込まずにいつするというのでしょうか」
 10年前、セリーナと婚約できないのであれば、せめて彼女を守る騎士になろうと思った。
 強くなって必ず守ると。
 いつしか誰よりも強くなり、23歳という若さで第二騎士団長まで上り詰めた。
 第一騎士団は国王陛下、第二騎士団は王太子を守る任務だが、守りたいのは王太子ではなく、王太子妃のセリーナだった。
「どうか婚約の許可を」
「……セリーナが頷いたら認めよう」
 お父様! どうしてそんな大事な決断を私に振るのですか!
 貴族の結婚は政略結婚。
 親や祖父が決めるものなのに、私に決めさせるなんて無茶苦茶でしょ。
 スティーブンはソファーから立ち上がると、困惑するセリーナの前に跪く。
「スティーブン様?」
「セリーナ嬢、病める時も健やかなるときも、あなたを愛する許可をください。生涯お守りすると誓います。どうか、俺の妻に」
 綺麗な緑の眼で見つめられたセリーナは、まるで物語の中のお姫様になったかと錯覚してしまいそうなプロポーズに魂が抜けそうだった。
「……でも私は地味で」
「誰よりも美しいです」
「傷物で……」
「あなたが望むのなら、俺が報復して参ります」
「の、望んでいませんっ」
 セリーナはワタワタと両手を左右に振る。
 片想いでかまいませんと、スティーブンはセリーナの手を捕まえた。
 そのまま手の甲に口づけされたセリーナは真っ赤な顔に。
「妻になってもらえますか?」
 頷くまで手を離しませんと微笑むスティーブンの緑の眼が綺麗すぎて困る。
「……よろしくお願いします」
 やっとの思いで答えたセリーナは、スティーブンの極上の笑顔に気絶するかと思った。
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