バリキャリ経理課長と元カレ画家、今さら結婚できますか?
第三話 「アートギャラリー」
久しぶりに残業のない日。
理沙は、ふと足を向けたデパートの前で立ち止まった。
エントランス横の壁に「翠想会グループ展」と書かれたポスターが貼られている。
——そういえば、最後に美術館に行ったのはいつだったか。
そんなことを思いながら、吸い込まれるように中へ入った。
展示スペースには、さまざまなタッチの絵が並び、静かなピアノのBGMが流れている。
理沙はゆっくりと歩きながら、一枚一枚絵を眺めていく。
そして、ふと目に留まったのは 鮮やかなバラの絵。
深紅の花びらが、ナイフを大胆に使った独特の筆致でキャンバスの上に立体的に浮かび上がっている。
「……このタッチ、どこかで——」
胸がざわついた。
まじまじと作品を見つめ、右下のサインに視線を落とす。
"Takuma"
そして、その絵の下のプレートに書かれたフルネームを確認する。
「浅井拓真」
一瞬、呼吸が止まった。
大学時代に付き合い始め、一時は結婚まで考えた相手。
だが彼は「家庭を支える自信がない」と言って、理沙の前から姿を消した。
あれから10年。
もう過去のことだと思っていたのに——。
今さら、こんな場所で彼の名前を目にするなんて。
「気に入ってくれましたか?」
突然の声に肩が跳ねた。
振り向くと、ギャラリーのスタッフが穏やかに微笑んでいる。
「えっ……あ、はい」
戸惑いながらも、絵から目を離せない。
「この作品、人気がありまして。購入を検討されている方も何人かいらっしゃるんですよ。もう少しで売約済みになってしまうかもしれません」
その言葉を聞いた瞬間、心がざわめいた。
——手放したくない。
なぜそう思ったのか、自分でもわからない。
ただ、この絵が他の誰かのものになることだけは、耐えられなかった。
「これ、買います!」
思考よりも先に、口が動いていた。
スタッフが一瞬驚いたように目を見開く。
だが理沙の中では、すでに答えが出ていた。
この絵は、私が持っていなきゃいけない。
そう、強く思った。
理沙は、ふと足を向けたデパートの前で立ち止まった。
エントランス横の壁に「翠想会グループ展」と書かれたポスターが貼られている。
——そういえば、最後に美術館に行ったのはいつだったか。
そんなことを思いながら、吸い込まれるように中へ入った。
展示スペースには、さまざまなタッチの絵が並び、静かなピアノのBGMが流れている。
理沙はゆっくりと歩きながら、一枚一枚絵を眺めていく。
そして、ふと目に留まったのは 鮮やかなバラの絵。
深紅の花びらが、ナイフを大胆に使った独特の筆致でキャンバスの上に立体的に浮かび上がっている。
「……このタッチ、どこかで——」
胸がざわついた。
まじまじと作品を見つめ、右下のサインに視線を落とす。
"Takuma"
そして、その絵の下のプレートに書かれたフルネームを確認する。
「浅井拓真」
一瞬、呼吸が止まった。
大学時代に付き合い始め、一時は結婚まで考えた相手。
だが彼は「家庭を支える自信がない」と言って、理沙の前から姿を消した。
あれから10年。
もう過去のことだと思っていたのに——。
今さら、こんな場所で彼の名前を目にするなんて。
「気に入ってくれましたか?」
突然の声に肩が跳ねた。
振り向くと、ギャラリーのスタッフが穏やかに微笑んでいる。
「えっ……あ、はい」
戸惑いながらも、絵から目を離せない。
「この作品、人気がありまして。購入を検討されている方も何人かいらっしゃるんですよ。もう少しで売約済みになってしまうかもしれません」
その言葉を聞いた瞬間、心がざわめいた。
——手放したくない。
なぜそう思ったのか、自分でもわからない。
ただ、この絵が他の誰かのものになることだけは、耐えられなかった。
「これ、買います!」
思考よりも先に、口が動いていた。
スタッフが一瞬驚いたように目を見開く。
だが理沙の中では、すでに答えが出ていた。
この絵は、私が持っていなきゃいけない。
そう、強く思った。