バリキャリ経理課長と元カレ画家、今さら結婚できますか?

第六話「岐路に立つ」

理沙は、拓真と一度距離を置くことにした。

彼の夢を応援したい——その気持ちは変わらない。
けれど、このまま何度もぶつかるだけでは、お互いにとって良くない気がした。

「今のままじゃ、彼のためにもならない……」

そう思いながらも、携帯の画面を眺める時間が増えていることに気づく。
連絡をすれば、また言い合いになる気がした。

だから、しない。

それが、理沙が選んだ答えだった。

   ◇◇

期末の繁忙期。

理沙の率いる経理部管理課は、売上・利益目標の達成状況をまとめ、
経営企画部と連携しながら管理指標の精査に追われていた。

「課長、今期の損益データがまとまりました」
「ありがとう。じゃあ、営業利益率の推移をもう一度チェックして」
「はい!」

モニターに映る会計システムの画面に並ぶ数字やグラフ、毎日のような会議。

次々と仕事をこなしながらも、心の奥では拓真のことが消えない。

「……私は、もう一度彼と向き合うべき? でも、どうやって——」

考えかけて、首を振る。
今は仕事に集中するしかない。

そう言い聞かせていた。

   ◇◇

拓真のアトリエに行くこともなく、連絡もしないまま2か月が過ぎた。

その間に、会社では大きな変化が起こっていた。

理沙の勤める辰巳イノベーションズは、経営企画部と経理部を統合し、CFO型組織 へ移行しようとしていた。

現在の経営企画部長の飯野がCFOとなり、財務・経営戦略を統括する。
そして——理沙には、新設される戦略経理部の部長 というポジションが打診された。

「……戦略経理部?」

企業の財務戦略を担う部署であり、その長は実質的に経営企画部長の後継ポジション。

「つまり、会社としては私に次世代の幹部候補になってほしいってこと?」

管理会計の専門家であり、経営企画部と深く関わってきた実績を評価されてのオファー。
責任も、役割も、今とは比べ物にならない。

キャリアをさらに進めるチャンス。
けれど、それは同時に——

自分の人生を、より仕事中心にする道でもある。

「……私は、新しい挑戦をするべき?」

ー挑戦なしに成功はありえないー
拓真には、そう言っておいて迷う自分が可笑しかった。

理沙は、オファーを受諾し、前へ進む決意をした。
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