バリキャリ経理課長と元カレ画家、今さら結婚できますか?

第九話 「辞令」

「……6月1日付で貴殿を経理部管理課長の任から解き、同日付を持って戦略経理部長に任命する。今後、ますますの活躍を期待する」

辞令を受け取る手に、自然と力がこもる。

——これが、新しいスタート。

仕事の範囲も責任も、これまでとは比べものにならない。
それ相応のプレッシャーもある。
しかし、理沙は迷いなく頷いた。

「ありがとうございます。全力で務めます」

辞令を手に、改めて気を引き締める。
そして、そのまま新組織のキックオフミーティングへ向かった。

会議室には、新しく編成された戦略経理部のメンバー が集まっていた。
管理課時代からの部下、元経営企画部のメンバー——それぞれ異なるバックグラウンドを持つ人々が、一堂に会する。

——このチームを、どうまとめていくか。

理沙は、参加者の顔をひとりひとり見渡し、ゆっくりと口を開いた。

「本日より、戦略経理部が発足します。皆さん、ご存知の通り、当部のミッションは 経理財務の専門家としてCFOの意思決定をサポートすることです」

静かにうなずく者、真剣な眼差しでメモを取る者。
理沙は、その反応を確かめながら、言葉を続けた。

「当面、皆さんの担当業務に大きな変更はありません。ただし、今後はこのミッションを意識し、より広い視野を持って業務に取り組んでください」

彼女は、一瞬間を置き、さらに語気を強めた。

「経理と経営企画の統合によるシナジー効果を最大限に引き出し、組織としての価値を高めていきます。そのためにも、皆さんの業務内容も徐々に見直していくことになるでしょう」

部屋の空気が少し引き締まるのを感じた。

「変化を恐れる必要はありません。新しいチャレンジを、前向きに受け止めてもらえればと思います」

理沙の言葉に、何人かが頷いた。

——いよいよ、新組織での挑戦が始まる。

この部をどう導いていくか。
このチームを、どれだけ強くできるか。

新たな責任の重みを噛みしめながら、理沙は背筋を伸ばした。
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