Embrace ーエリート刑事の愛に抱かれてー
それでも小夜は何も言えない。
広之が理不尽な理由で小夜に手を上げるのは、日常茶飯事だった。
小夜の頬は赤く腫れ上がり、それを見ても何とも思わない素振りで、広之は吐き捨てるように舌打ちした。
「何だよ、その眼は。言いたいことがあるならハッキリ言えよ。お前見てると、イライラすんだよ。」
「・・・・・・。」
「ったく。使えねー女。」
「・・・・・・。」
「今度、同じ事したらもうここには来ないからな。」
「え・・・?」
「何度も同じこと言わせんなよ。」
「ごめん・・・。」
広之はハンガーに掛けられたワイシャツやスーツを掴むと、急いで衣服を身につけた。
狭いキッチンのテーブルには、卵焼きや鰺の開きといった朝食が二人分並べられている。
しかし広之はそれらには目もくれず、バッグを持ち、玄関で革靴を履いた。