Embrace ーエリート刑事の愛に抱かれてー

情交


小夜と男は駅前のチェーンの牛丼屋に入った。

中途半端な時間帯だからか、店内はガラガラで、中年のサラリーマンがカウンター席で丼を掻き込んでいるだけだった。

「何がいいんだ?ネギ玉やキムチ、チーズ牛丼なんてのもあるぞ。」

券売機の前で男にそう問われ、小夜は遠慮がちに答えた。

「普通の牛丼でいいです。」

「そうか。」

男は店員に注文を頼み、ふたりは薄汚れたテーブル席に座った。

ほどなくして注文した牛丼を、若い店員がぞんざいにテーブルに置いた。

小夜は目の前にある、つゆが染みた白飯と牛肉を割り箸で挟み、口に入れた。

自分がまだこうして生きて、食べ物を口にしているのが信じられなかった。

本当なら今頃固く冷たいコンクリートの上で、血を流し身体はねじ曲がり、哀れな屍になっていたはずだった。

それなのに、いま自分の脳と身体はこの牛丼を早く食べろと訴えている。

「今まで食べたものの中で、一番美味しい・・・」

小夜は思わずそうつぶやいた。


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