Embrace ーエリート刑事の愛に抱かれてー
目の前に座っている男は、瓶ビールだけを頼んでコップに注ぎ、手酌でそれを飲んでいた。
小夜が牛丼を食べ終わると、それまで黙っていた男が口を開いた。
「何があったのか、言ってみろ。聞いてやるから。」
小夜は奢ってもらった分くらいは、男に礼をしなければと思った。
自分の身の上に起こったつまらない話でも、酒のつまみぐらいにはなるだろう。
「よくある話です。恋人だと思っていた男に裏切られて、挙げ句の果てに捨てられたんです。」
「何年付き合ったんだ?」
「大学2年の時からだから、もう4年になります。」
「じゃあお前は、いま24か?」
「そうです。」
「まだまだこれからじゃねえか。そんなにその男が好きだったのか?」
「わかりません・・・。浮気もされてたし・・・。でも、淋しくて・・・。」
「悪い男と縁が切れて良かったんじゃねえの?」
男はそう言うと、コップの中のビールを飲み干した。
小夜はどうせならこの男に全てを聞いてもらおう、と思った。
「・・・貸したお金も持ち逃げされました。借金があるからっていうから貸したのに・・・そのお金であの男は新しい人生を始めたんです。その後は音信不通になりました。」