Embrace ーエリート刑事の愛に抱かれてー
事件 ー桂木sideー
南池袋警察署内の取調室では、桂木が強面で屈強なスキンヘッドの男を鋭く睨み付けていた。
男は暴行罪の疑いで緊急逮捕され、今はその犯行状況を吐かせるために尋問している最中だった。
男は薄ら笑いをしながら、もう30分ばかりダンマリを決め込んでいる。
桂木は自らの椅子を蹴飛ばして立ち上がり、男に向かって言った。
「お前がやったんだろ?目撃者が多数いるんだよ。何故被害者を殴った?」
「・・・・・・。」
「黙秘出来ると思うなよ?」
「・・・・・・。」
桂木は机を大きく叩き、男を脅すように叫んだ。
「洗いざらい吐け!てめえみたいなちんぴらにいつまでも関わっていられねえんだよ!吐かないと、ここから一歩も出さねえからな!」
「・・・・・・。」
「お前を池袋で生きていけないようにしてやろうか?」
「・・・・・・。」
「お前は山上組の舎弟と付き合いがあるんだろ?あいつらに今回のことが知れたら・・・わかるよな?」
男の目に怯えが走り、しばらくすると観念したように口を開いた。
「・・・・・・あいつが俺の女にちょっかいだしたからだよ・・・」
「・・・・・・」
「俺のダチが、俺の女とあいつがホテルに入ったのを見たって・・・」
「だからビール瓶で被害者の頭を殴ったのか?」
男は素直に頷いた。
色恋沙汰ってわけか。
よくある話だ。
以前はそんな男と女の揉め事で犯罪に走る輩を、内心馬鹿にしていた。
しかし今の桂木は、目の前の男に同情している自分を自覚していた。
下条小夜から金を奪い取った男をどうにかして捕まえ、小夜の痛みを思い知らせたい。
あの日からそんな思いが、桂木の頭を占めていた。