true or false~銀縁眼鏡を外した敏腕弁護士は、清純秘書に惑溺する
席に戻り、片桐さんのスケジュールを見ると、ビッシリと詰まってる。
「開業して間もないのに、凄いですね」
「前の事務所で、引き継いだ弁護士が片桐さんみたいに対応出来なくて、クレームが来てるらしくてさ。中にはうちと契約するって会社も出て来て、今、こまさんが走り回っているよ」
「こまさん、凄いですね?」
「う、うん・・・」
どうしたんだろう・・・一瞬顔が曇ったようだけど・・・

その時、片桐さんが部屋から出て来た。
ネクタイをして、ジャケットを着ている。
「加東君、留守番頼んでいいかな?前の事務所に、深澤さんも連れて行こうと思ってね。俺の傍にいるのが、秘書として 1番良い経験になるから」
「大丈夫ですよ」
「勉強していいからね。深澤さん、出掛けるよ」
「は、はい」
バッグを持って、慌てて片桐さんの後ろについて行った。

車の助手席に乗り、シートベルトを締めて横を見ると、片桐さんと、いわば密室の中に至近距離、そして2人きりの状況に、急に心臓がバクバクしてきた。

「深澤さん、静かだけど大丈夫?車酔いするとか?」
「いえ、全く酔いません。少しばかり緊張しております」
あまりに緊張しすぎて、かしこまった言葉が出てくると、片桐さんがクスッと笑った。
「かなり緊張してるね?大丈夫だよ。友好的に退職したからね」

いえ、緊張は、行き先では無く、今のこの状況です・・・
そうとも言えず、
「こまさんと同時に、2人の弁護士さんが退職したら、事務所は大変ですよね?」
その言葉に顔が曇る。
さっき、加東さんも確かこの話の時・・・
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