ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜
 私と百合香は観光学科に通い、将来はツアーコンダクターを目指している。
 それはもちろん、世界各地のスイーツを制覇したいからという野望のためである。
 ツアコンになるためには、観光業界の知識を学ぶのは当然だが、実際にツアーに同行して経験を積む実習も必要となる。
 八月下旬には、二人とも初めての実習が控えていた。
 談笑している私たちのテーブルに店員さんがやってきて、それぞれ注文したものが置かれた。
 
「お待たせいたしました」

 百合香はブラックのアイスコーヒー。対する私は、季節限定の大きなパフェだ。
 まるで宝石箱みたいに輝くその姿を目の前にして、私はついテンションが上がってしまった。

「これ、見てよ百合香! 桃と白桃のソルベがダブルで使われてるんだよ? それに、このムース! クリーミーなのに、ちゃんとぷるんとした弾力があって……ほら、白桃のムースは濃厚で、ラズベリーの酸味とのバランスが最高なの! しかも、最上層のフルーツと下層のムースを一緒に食べると、甘さと酸味のハーモニーが……」

 気づけば、私はスイーツの感想をひとりでマシンガントークしていた。
 百合香がコーヒーを口に運ぶ手を止め、じっと私を見ていることに気づくのに数秒かかる。
 ああ、またやってしまった……。
 私は、スイーツを目の前にするとこうなってしまう。
 それに付き合ってくれるのは、今や百合香だけかもしれない。
 失敗を誤魔化すようにパフェを一口、ひんやりとした桃が喉を通り夏の暑さで火照った体を冷やしてくれる。
 
「……あのさ、天音?」
「え、何?」
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