ライバル店の敏腕パティシエはスイーツ大好きな彼女を離さない〜甘い時間は秘密のレシピ〜

5・古都屋の水ようかん

「緊張してる?」
「は、はい。少し……」

 緊張しているのは、なにも今から起こる出来事のことだけではなかった。
 なんとなく、愁さんとの距離が近い気がするからです……!
 私の肩と愁さんの腕が、もう触れてしまっている。さりげなく、ススっと距離を取ろうとしても、数センチ動いただけで愁さんの手が私の肩を捕えるので諦めた。
 
「大丈夫、恋人のフリをしてくれればいいだけだから、リラックスして」

 そう、恋人だから。距離が近いのは仕方がないのです。
 そう自分に言い聞かせて深呼吸する。
 でも、さすがに玄関先で手を繋ぐのは、やりすぎのような気もするのですが……!

 私たちは今、愁さんの家の前にいる。
 愁さんの父親──謹二(きんじ)さんに課題の変更をしてもらうのと、恋人(役)である私を紹介するためだ。
 うちのファリーヌは住居と店舗が一体になった家だけど、愁さんのお家はそうではなく、シャテーニュから数メートル離れた場所にあった。
 だけど、予想以上に驚いた。
 まるで王族の邸宅のような、立派なお屋敷だったのだ。
 広い庭は柵に囲まれ、入り口は格子状の大きな門が構えられている。
 愁さんって、もしかして本当に王子様? なんて思ってしまう。
 
 緊張で手汗がひどくなってきて、反対側の手に持つ手土産の紙袋がずり落ちそうになるのを、ぐっと握りしめた。
 
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