クールなエリート警視正は、天涯孤独な期間限定恋人へと初恋を捧げる
道路と歩道の間にある白いガードレール沿いに立っていた美青年が、颯爽とこちらに歩いてくる。流麗な黒髪が風に躍った。
「君に話がある」
警視庁警視正・近江圭一。
彼は先日と同じようにかっちりとした黒いスーツに身を固めていた。
夜闇に溶け込みそうな色彩で、夜行性の獣を彷彿とさせてくる。
芸能人もかくやというべき美青年が姿を現したからだろう。近くを通りがかった女性たちが黄色い悲鳴を上げる。
歩み寄ってくると、紗理奈の前で歩を止めた。
昨日も思ったが、身長が高い。
相手から見下ろされると、まるで大人と子どものようだった。
「堂本紗理奈、もう覚えていないかもしれないが、警視庁警視正の近江だ」
「私の本名を覚えていらっしゃったんですか?」
少し間があった後、近江が答えた。
「……ああ、この間聞いていたからな」
「そうでしたか。記憶力が良いんですね」
確かに事情聴取をされていた。一度名前を聞けば覚えるタイプの人間なのだろう。
「被害に遭った女性の名前を覚えるぐらい当然だ」
「そうですか。会社の名前は知らせていなかったはずですが?」
紗理奈は近江の顔を見つめながら問い返す。
「事情聴取は昨日終わったと思っていましたが、何か答えそびれたことでもあったでしょうか?」
「いいや、そうではない」
すると、彼がポケットの中から一枚の写真を取りだした。
写真に写る人物の姿を見て、紗理奈はひゅっと息を呑んだ。
爽やかな笑みを浮かべる短髪の青年。黒い制帽を被って、青いシャツに身を包んだ姿。
「それは……」
「この男、君の兄ではないか?」
「はい」と答えても良いものだろうか?
とはいえ、相手は警察官。昨日、他の警察官たちと一緒に過ごしている姿も目にしている。身分は確かな人物である。
おかしな隠し事や嘘を吐いたりしても意味はないだろう。
「はい、そうです」
すると、近江がどこか遠い目をしながら続けた。
「やはり、堂本陽太の妹だったか」
紗理奈は相手に噛みつくように話し掛けた。
「だったら、何だって言うんですか?」
すると、近江が静かに告げる。
「君を保護させてもらう」