新海に咲く愛
奈緒はプールサイドで準備運動を始めたものの、その動きにはぎこちなさがあった。
それでも一生懸命に指示に従おうとする姿勢が見て取れる。海斗はそんな彼女の様子を見守りながら、一つひとつ丁寧に指導した。

「大丈夫ですよ、中村さん。最初はみんなこんな感じです。無理せず、自分のペースでやっていきましょう。」

奈緒は不安そうな表情を浮かべながらも、「はい」と小さく答えた。

その声には少しだけ安心感が混じっていた。
プールに入ると、水の冷たさに奈緒は一瞬身震いした。

しかし、それ以上に彼女を戸惑わせたのは、自分自身だった。
水中では身体が軽くなる分、自分の動きが思うようにならない。それでも奈緒は必死だった。

姑から「スイミングくらいまともにできないなんて恥ずかしい」と言われ続けており、それだけでも十分なプレッシャーだった。

「中村さん、大丈夫ですか?」

突然声をかけられ、奈緒はハッと顔を上げた。
目の前には海斗が立っており、その優しい眼差しが彼女をじっと見つめていた。

「すみません……私、不器用で……」

「そんなことないですよ。」
海斗は笑顔で答える。

「最初から完璧な人なんていません。それよりも、一歩一歩進むことが大事です。」

その言葉に、奈緒は少しだけ心が軽くなるような気がした。それでもまだ、自分自身への自信は持てなかった。

ただ、このインストラクターなら信じてもいいかもしれない――そんな気持ちだけが心に残った。
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