最後の旋律を君に
光が輝く街の中、二人はゆっくりと歩き続けていた。

冷たい風が吹き抜けるたびに、律歌はマフラーをぎゅっと首に巻き直しながら、隣を歩く奏希の様子を気にした。
久しぶりの外出で疲れていないだろうか。体は冷えていないだろうか。

「寒くない?」

「ううん、大丈夫だよ。律歌は?」

奏希くんがふわりと微笑む。その笑顔に、律歌の心は少しだけ安らいだ。

「私は平気。でも、寒かったら無理しないで言ってね」

「ありがとう。でも、本当に大丈夫。……それより、ほら」

奏希くんは前を指さした。

そこには、大きなクリスマスツリーがそびえ立っていた。
色とりどりのイルミネーションが装飾され、まるで光の花が咲いているかのようだった。

「すごい……!」

律歌は思わず声を漏らした。

ツリーの下にはたくさんのカップルや家族が集まり、写真を撮ったり、楽しそうに話したりしている。
その光景を眺めながら、律歌はふと奏希くんの横顔を見つめた。

「奏希くん……楽しい?」

「もちろん」

即答する奏希くん。その声には、少しの迷いもなかった。

「久しぶりにこんなに長く外にいるけど、思ってたより平気だし……何より、律歌と一緒にいると、心が温かくなるから」

「……奏希くん」

心臓がドキリと跳ねる。奏希くんの言葉があまりにもまっすぐで、律歌は思わず視線を逸らした。

――私は、どうしてこんなにもこの人のことが好きなんだろう。

「ねぇ、律歌」

「な、なに?」

「手……つないでもいい?」

「えっ……?」

突然の申し出に、律歌は目を瞬かせた。

「寒いし、迷子にならないように」

冗談めかしたような奏希くんの言い方。でも、その瞳は真剣だった。

律歌は少しだけ迷ったあと、小さく頷いた。

「……うん」

すると、奏希くんはそっと律歌の手を取った。

彼の手は少し冷たかった。でも、その冷たさがかえって愛おしく思えた。

二人はゆっくりと歩きながら、ツリーの下へと向かう。

イルミネーションの光が、二人の影を優しく照らしていた。
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