最後の旋律を君に
冷たい冬の風が街を包み込む中、律歌はお気に入りのコートを羽織り、待ち合わせ場所へと向かっていた。

病院の入り口に着くと、すでに奏希が立っていた。深いグレーのコートにマフラーを巻き、どこか儚げな雰囲気をまとっている。
それでも、彼が病院の外にいるだけで、どこか元気そうに見えた。

「律歌」

彼が気づいて手を振る。その姿を見て、律歌の胸が高鳴った。

「待たせちゃった?」

「ううん、僕も今出てきたところだから」

奏希くんは少し微笑んで律歌の横に並ぶ。彼が病院の外にいるというだけで、なんだか不思議な気持ちがした。

「なんだか新鮮だね、こうやって二人で外にいるの」

「そうだね。病院以外で会うのって、たぶん初めてかも」

律歌がそう言うと、奏希くんは静かに頷いた。

「せっかくの外出許可だし、存分に楽しもう」

そう言って、二人はショッピングモールへと向かった。

---

日が暮れ、空に浮かぶ星々が輝き始めた頃、二人はショッピングモールの広場に到着した。

「わぁ……!」

律歌の目の前には、まばゆいばかりのイルミネーションが広がっていた。
色とりどりの光が並木道を照らし、幻想的な世界が広がっている。

「綺麗……!」

息を呑むほどの美しさに、律歌はしばらく立ち止まって見惚れていた。

「本当に綺麗だね」

隣から奏希くんの穏やかな声が聞こえる。横を見ると、彼もまたイルミネーションをじっと見つめていた。

「律歌が教えてくれたおかげで、こんな景色を見ることができたよ」

「……ううん、奏希くんが外出できるようになったから、一緒に来られたんだよ」

ふと、奏希くんが手を伸ばして、小さく光るツリーのオーナメントに触れる。

「こういう景色を、もっと早く知っていたら良かったな……」

律歌は、彼の横顔を見つめる。その表情には、どこか切なさが滲んでいた。

「まだ間に合うよ」

「え?」

「これからだって、奏希くんはいろんな景色を見られるよ。今日みたいに、また一緒に見に行こう」

奏希くんの瞳が律歌を見つめる。

「……そうだね」

彼は微笑み、ふっと優しい息をついた。

「律歌がそう言ってくれるなら、信じてみようかな」

寒い冬の空の下、二人は光に包まれながら、しばらく静かに佇んでいた。
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