どん底貧乏美女は夢をあきらめない
美玖はあれっ今婚約者とか言ってなかったか?

いつの間に恋人から婚約者にランクアップしているんだろう???

首をかしげながら大吾の後に続く美玖だった。

部屋につくと、荷物をキッチンまで運んでくれた大吾が、興味深そうに美玖が買ってきたものを見ている。

みんなペアになっているマグカップと湯飲みと茶碗に箸が出てくると、なぜかにんまりと笑って

「そっか、みんなペアで買って来たんだ。
可愛いな」

と言った。

可愛い?何が?食器は可愛いと言うよりもこの部屋の雰囲気に合わせて、すっきりとしたナチュラルモダンなもので揃えたのだが…
これが大吾の感覚では可愛いのか?

まあいいかっ、とりあえず気に入ってくれたみたいでよかった。

大吾はまだペアの食器を手に取ってにやにやしている。

大吾は美玖がペアで買ってきた食器がうれしくて、美玖のそんな心使いが可愛くて愛おしくてたまらない。

こんなに重いものを歩いて持って帰って来るなんて、そこは少し気に入らないが、食器のセンスも良い。
さすが美玖だ。

さっきさらっと言った婚約者という言葉にも反論しなかったので、大吾はこれからは婚約者という立場を通すつもりだ。

こうして外堀を埋めていって、絡めとるつもりなのだ。

もう美玖のいない生活は考えられない。

胃袋は完全に持っていかれている。

美玖の料理は本当に美味しくて優しいのだ。体が美玖の料理を喜んでいるのが分かる。

お昼や夜の食事を事務所で摂るようになって、体調が随分よくなった。

食べるものでこんなにも健康的に成りえるのだと初めて知った。

美玖のおかげだ。

美玖は本当に周りの人に優しいし気遣いができる。

いつも自分の事は後回しだ。

外見は黙っていれば近寄りがたくクールにみられる。

美人だからだと思うが、集中して真剣にパソコンに向かっている美玖は背筋をピンと伸ばし、その横顔はほれぼれするほど美しい。

近寄りがたいオーラをまとっている。

でもいったん気を抜いて笑っているときは、お茶目でかわいくてちょっとドジだ。

仕事では失敗はしないのに、なんでこんなことがと思うようなずっこけぶりを見せてくれる。

いろんな表情をするのを見ていて飽きない。

誰にも触らせたくないと思う独占欲が、抑えられない。

親父からの政略結婚の話を利用して、強引に同居に持ちこんだ。

美玖も俺の事は好いていてくれるはずだ、と思う。

一日も早く本当の婚約者にしないと…ちょっと焦り気味の大吾だ。
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