人間が苦手なクールな獣医師が恋をして一途に迫ってきます

　患者さんのご家族にこうしてたまに声をかけられることがあった。そのたびに私はどのような対応をすれば失礼ではないかと考えながら、言葉を発するようにしている。
　周りのスタッフに助けてもらえないかと目配せをするが、まりえさんが目を細めてこちらを見ているだけだった。他の人たちは忙しそうにそれぞれの仕事に勤しんでいる。
　自分でなんとかしなければ。真摯に対応しようと心を落ち着けて患者さんのご家族と目を合わせた。
「せっかくのお誘いなのですが、申し訳ありません……」
「恋人いるんですか？」
　断ったのにまだグイグイと質問してくる。
「いえっ。そういうことではなくて、ですね……」
　どんな言葉で断るのが正しいのかわからない。しどろもどろになってしまった。
「じゃあ、友達から始めませんか？　会えなくなるから勇気を出して声をかけたんです」