人間が苦手なクールな獣医師が恋をして一途に迫ってきます
「かしこまりました。ごゆっくりなさってください」
 頭を深々と下げられる。
 中に入ると足音が響かないような毛の短い絨毯が敷かれていて、爽やかなアロマのような香りがした。
 涼しくてちょうどいい温度だ。
 私はロビーに置いてあるソファーに腰を下ろした。
 来館しているお客さんたちを眺めてみると、みなさんスタイリッシュで洗練されている。周りには楽しそうに話している人や、仕事で訪れているようなスーツの人が過ごしていた。
 ビクビクしながら座るのは私くらいかもしれない。
 獣医師は私が普段行かないようなこんなホテルで、食事をするのが当たり前なのだろうか。
「お待たせ」
 うつむきため息を吐く。すると黒い立派な靴が目に飛び込んできた。
 顔を上げると宍戸ドクターが私服で立っていた。
 カジュアルなジャケットを羽織って、スラックスという姿だ。
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