人間が苦手なクールな獣医師が恋をして一途に迫ってきます

　宍戸ドクターから視線を逸らしてふと横を見ると、そこにいたのは、まりえさんだった。なぜ彼女がここに居るのだろう。
　いや逆になぜ私がここに居るのだという話だ。
　まりえさんは院長の娘なのだから、このような高級ホテルで食事をするというのは日常なのかもしれない。
　宍戸ドクターは彼女の存在に気がついていない。伝えるべきか伝えないほうがいいのか悩んでしまう。
「山井さんって意外と頑固なんだな。仕方がないか……。次はもっと距離を縮めてもらえるように俺も頑張る」
「え……いや、そんなに頑張っていただかなくても……」
　そんな話をしていると、まりえさんはそのまま私たちに声をかけることなく去っていった。

　　　＊

「山井さん、このファイルの整理を早くしてってお願いしたでしょ」
　次の日からまりえさんの態度がさらに厳しくなった。