人間が苦手なクールな獣医師が恋をして一途に迫ってきます
 強引に抱きしめられたと私は勘違いをしてしまったようだ。それでも嫌だとは思わなくて、むしろこのまま時間が止まってしまえばいいとさえ考えていた。
「じゃあ、職場まで一緒に傘をさして歩いてもらえないか? そうしたら俺が車で家まで送っていくのはどう?」
「……」
 少し考えてみるけれど、そうしないと宍戸ドクターは私から傘を受け取ろうとしないだろうし、濡れた状態で病院まで行くはずだ。
 空を見上げると真っ黒で晴れる余地はなかった。雨足も強くなってきているし、一緒に行くしかない。
 私はうなずいて相合傘をすることにした。
「俺が持つよ」
「会って」
 並んで歩き出すが心臓の動きがおかしくて、立派な大人なのに学生かと突っ込みを入れたくなった。
 宍戸ドクターは私が濡れないように傘をこちらに多く向けてくれる。
「こっから裏道を通っていくと住宅街になるんだけど、意外と近いんだ」
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