キミと桜を両手に持つ
今まで口頭でイトコと言われてたので男の人なのか女の人なのかさえわからなかった。でも実際に従兄とメッセージに書いているということは彼女よりも年上の男の人なのだろう。
はわわわ、大変!! まだパジャマのままだよ。は、早く着替えなきゃ……!
長い髪も絡まったままでぼさぼさだし、メイクも歯磨きもしてない。バタバタと慌てて着替えて洗面所で歯を磨いていると、玄関の方から音がした。
ええっ、うそっ!! もう着いちゃったの!?
急いでうがいをして鏡で自分の姿を確認する。ボサボサの髪は手で撫で付けてなんとかするとしても、顔が浮腫んでるのはもうどうしようもない。いろいろ諦めつつなんとか身支度を整えると、緊張しながらそっと玄関の方に歩いた。
詩乃さんの従兄ってどんな人なんだろう……
玄関に向かいながら初めて会う彼女の従兄を想像した。詩乃さんは育ちがいいのかとても所作が綺麗だ。そのせいか正統派美人に見える。背もすらりと高くてどんな洋服を着ても似合うモデルさんみたい。従兄も同じ血を引いているならかっこいい人かもしれない。
ドキドキとしながら玄関に行くと大きなスーツケースの隣でかがんで靴の紐を解いている黒髪の男性がいた。緊張からなのかドクンと胸が高鳴る。
かがんでいても背の高い人だとすぐにわかる。肩幅も広くて何かスポーツでもしているのかなと思ってしまう。彼は長旅用のカジュアルなグレーのシャツにダークネイビーのジャケット、それに黒っぽいデニムパンツを着ている。
「……あの、初めまして。如月凛桜と申します。この度は勝手にお部屋をお借りして大変ご迷惑を……」
靴を脱いでいる男性におずおずと声をかけた。すると私の声に顔を上げたその人を見て思わず驚きの声を上げた。