キミと桜を両手に持つ

 「は…?……えっ…──と、藤堂さん!??」

 あまりにも驚いて声が上擦ってしまった。でも彼は特に驚きもせず私を見た。
 
 「おはよう、如月さん」

 「……えっ……ええぇっ!? 詩乃さんの従兄って藤堂さんだったんですか?」

 そう言えば詩乃さんになんとなく似ているような気もする。それに二人ともとても綺麗な顔立ちをしているというところは共通しているかも……。

 驚きすぎて瞬きを繰り返しながら見つめていると、彼は少し苦笑いをした。

 「……実はそうなんだ。別に隠してるつもりはないんだけど、ただ公に公表してないだけなんだ」

 靴を脱いだ彼は玄関から上がるとゆっくりと私の方へ歩いて来た。

 過去に何度かオフィスで会ったことはあるものの、改めて見ると本当に背の高い人だなと思ってしまう。私も160センチあるけどそれでも頭一つ以上違う。

 彼は目の前に立つとじっと私を見つめた。至近距離で見つめられてドキドキとしてしまう。

 長旅で疲れているはずなのにそんな事を一切感じさせない綺麗な整った顔。そして何と言っても低くて艶のある落ち着いた声……。いつ見ても大人の男という圧倒的な存在感がある。
 
 「……あの、お部屋を勝手にお借りしてしまい申し訳ありません。私……あの…」

 まだ顔も洗ってないし化粧もしてないすっぴん。完璧な彼を前に圧倒されてなんとなく縮こまってしてしまう。
 
 「事情は詩乃に聞いているよ。ここはこのまま使ってもらって構わないから。どうせ俺も1、2ヶ月程でまたアメリカに戻る予定だしね。部屋は空いてるし、もちろん如月さんさえよければアパートの修理が終わるまでここに居てもらっても構わないから」

 畏縮している私に気を使ったのか彼はニコリと微笑んだ。彼の初めて微笑む顔を見てドキッとする。藤堂さんって笑うとこんなに柔らかい表情になるんだ……。
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