無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
 気絶した私を克樹さんが病院まで運び診察してくれたってことだよね。花和みから病院までは歩いて十分以上かかるから相当大変だっただろう。

「迷惑をかけてごめんなさい」

 とにかくお礼と謝罪をせねばと上半身を起こそうとした。でもその瞬間ずきんと激しい痛みに襲われて呻いてしまう。

「うっ……痛い……」

 体中が痛い。一度意識するとずきずきと脈を打つような痛みが継続的に続くのを感じる。

「急に起きたらだめだ。ベッドを起こそう」

 克樹さんが冷静に言い、電動ベッドの角度を調整してくれた。

「体中痛い。骨折しているの?」
「いや。五段ほどの短い階段だったのが幸いして打撲で済んだ」
「えっ、あの階段五段だった?」

 もっと高いところから転落したイメージだった。それにしても五段の階段から落ちて気絶する私ってどんくさ過ぎないだろうか。

 しかも離婚話をした夫に迷惑をかけてしまうなんて。

「全身打撲で頭部からは出血が有ったが深刻な問題はない」

 そう言えば頭にも包帯が巻いてある。

「頭から血が出るなんて初めて」

 手や足の擦り傷と違ってなんだか怖い。

「頭皮には血管が多いから小さな傷でも出血が多くなる。羽菜の傷も跡が残るようなことはないだろう」
「そうなんだ」

 どうやら大した傷ではないようだ。

「ただに頭部は遅れて症状が出ることがあるから、数日は様子を見る必要がある。気分が悪かったり目眩がした場合はすぐに知らせてくれ」
「分かりました」

 こういうときに身内が医者だと心強い。

 それにしても、克樹さんは先ほどの話し合いなどなかったかのように、平静な医師の顔だ。
< 11 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop