無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
克樹さんが私を見つめながら口を開く。
「やはり外傷はないが、念のため専門医に診て貰った方がいいな」
――羽菜は俺の手で治してやりたいのに。
「……え?」
またおかしな声が聞こえてきた。
「大丈夫だ」
――心細そうな顔をしているな。可哀そうに……大丈夫だと抱きしめたいが、俺が触れるのは嫌がるだろうから逆効果になる。それなら……
「いやいや、ちょっと待って!」
なんなの、この非現実的な幻聴は!
あの決して私を近寄らせなかった克樹さんが、妻の心身を気遣い大切にする夫のような言葉を吐くなんて絶対にあり得ないのに。
私は夫婦関係に悩み過ぎて、妄想と現実の区別がつかなくなってしまったのだろうか。
もしかして、おかしくなったのは耳ではなくて脳の方なのでは?
「不安なのは分かるが、しっかり検査をするべきだ」
――羽菜が怖がらないように丁寧に検査をするように頼んでおこう。
酷く心配そうな声がやっぱり聞こえてくる。
だめだ……やっぱり私はどうかしてしまった。
目を閉じ頭を抱えた。
「羽菜?」
克樹さんが驚いたように声を上げる。今にも「どうしたんだ!」と肩を掴まれそうな慌てよう。
しかしその直後、苛立たし気な舌打ちの音が聞こえたものだから私は驚いて顔を上げた。
「はい……」
ちょうど克樹さんがスマートフォンを耳に当てて応答したところだった。今の
舌打ちって、まさか電話がかかってきたことに怒ったからじゃないよね。
克樹さんは淡々と相槌を打っている。
「……分かったすぐに行く」
彼は電話の向こうの相手といくつか言葉を交わしてから通話を終えてから、気まずそうな表情で私を見た。