無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!

「急患?」
「ああ。すぐに行かないといけない。検査に付き添えなくなった」
 ――こんなときに羽菜の側に居られないなんて!

 感情が感じられない声の直後に続くのは、悔しさが滲む叫び声。今にもくそっ!とか言いだしそうな勢いである。

「あ……大丈夫。当然急患を優先しなくちゃ」

 私は内心ドン引きしながらも、ひきつった笑みを浮かべて克樹さんに早く行くよう促した。

「ああ」
 ――すぐに戻るから。

「……行ってらっしゃい」

 克樹さんが足早に病室を出て行く。

 最後に白衣の裾が出て行ってスライドドアが閉まると、私は「はあ」と大きく息を吐いた。

 これは一体……どういうことなの?!

「訳が分からない」

 克樹さんらしさが全くないのに間違いなく彼のもので、しかもやけに生々しいあの声はいったい何?

 階段から滑り落ちて耳を打ったことで、幻聴が聞こえるようになったのだろうか。いやでも、そんなことってある?

 ないと思う。そう私の中の常識が訴えている。

「で、でも世の中には私の知らない病気なんてたくさんあるだろうし。とにかく耳の検査をしてもらおう」

 落ち着こうと自分に言い聞かせる。前向きになっている訳ではない。半ば現実逃避だ。

 広い個室のベッドの上、手に負えない状況に陥った私は考えを放棄したのだった。


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