無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
「……那、羽菜」
優しい声が耳に届き、私ははっとして閉じていた目を開ける。
いつの間にか眠っていたようだ。
寝起きでピントが合わない視界に、端正な顔が移り込んだ。
「え?……克樹さん?」
あまりの至近距離に驚き慌てて体を起こそうとしたが、克樹さんに止められた。
「急に起きるな」
克樹さんは私をベッドに戻すと、怜悧な眼差しで私を見おろす。
「もしかして検査の時間?」
「いや、時間が空いたから様子を見にきた」
――うなされていたから心配したが、大丈夫そうだな。
事実を述べる淡々とした声と共に、ほっとしたような声音のメッセージが耳に届く。
「もしかして、寝言言ってた?」
まさか変なこと口走ってないよね?
「寝言は言ってないが唸っていた」
――怖い目に遭ったんだから無理もないな、可哀そうに。
克樹さんが私の顔を覗き込んできた。さっきも思ったけれど躊躇いもなく顔を近づけてくるから、彼のアップに耐性のない私は焦ってしまう。
「ちょ、ちょっと離れて」
私は顔をそらして、克樹さんを押し返した。
「どうした?」
どうしたのって、この状況が恥ずかしいんです! メイクもしていないうえに寝起きの顔を至近距離で見られるのはきつい。
普通の夫婦ならなんともないことだろうが、私は克樹さんの前ですっぴんを晒す機会がめったにないんだから。
そもそも私は自分の素顔にコンプレックスがある。
とにかく童顔なのだ。まん丸の輪郭なうえにおでこが広く、各パーツが下に寄っている。目は大きいのに鼻と口は小さめで印象が薄い。
身長百五十二センチと小柄なのも相まって、よく小動物系と揶揄われてきた。初対面の場合百パーセント近くの確立で実年齢よりも下に見られるし、小さくて可愛いねとそれこそ知らない人にまで言われてきた。
でも誉め言葉であるはずの“可愛い”が私はあまり好きじゃない。
私が素敵だと感じる女性のイメージと正反対だからだ。それに可愛いとは言えない自分の性格と第一印象が全然有っていなくて居心地が悪い。