無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!
 だから少しでも年相応の大人の女性の雰囲気にしたくて、私なりに頑張ってはいるのだ。

 二か月前にはクールビューティーな雰囲気を目指して、初めてショートボブスタイルにチャレンジした。

 結果全然似合わなかった。鏡の前で微笑んでみたがこけしにしか見えなくて激しく落胆し、スタイリストさんがしきりに薦めてきたゆるふわミディアムヘアにしておけばよかったと心底後悔したのだった。

 今は少し伸びてきたけれど、中途半端な長さのため纏まり辛くて、寝起きの今は毛先が跳ねまくっているはず。よほどのことがない限り人には見られたくない姿だ。

 でも克樹さんは、私のこのデリケートな気持ちなんて分からないんだろうな。

 いや、彼は医師として診ているのだから、恥ずかしがる私がおかしいんだよね。

「羽菜?」

 克樹さんが私の肩に手をかける。

「どうしたんだ?」

 彼の声に緊迫感が増す。

「大丈夫。寝起きで顔も洗ってないから近くで見られたくないだけ」

 大事になりそうなので仕方なく白状すると、克樹さんが少し離れた気配がした。気を遣ってくれたようだ。

 ほっとしてようやく彼と視線を合せた。その瞬間耳に届いたのは……。

――そんなこと気にする必要ないのにな。羽菜は寝起きだって可愛いんだから。

「かっ!」

 可愛い? 驚きすぎて思わず奇声を上げてしまったじゃない。

 いきなり何言ってるの? まさか私を褒めるなんて……そんなの克樹さんじゃないでしょう!

 いつも私のことなんて、すがすがしいほど無関心だったのに。

 混乱する私に克樹さんが怪訝そうな顔をする。多分挙動不審だと思われているのだろう。でも私からすると変なのは克樹さんだ。

 いや、おかしいのはやっぱり私の耳なの?

 私は半ばパニック状態で頭を抱えたのだった。
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