無口な脳外科医の旦那様、心の声(なぜか激甘)が漏れてます!


 その後耳の検査をしてもらったが、僅かな外傷すらなく聴力は良好とのことで、結果としてなにも問題は見つからなかった。

 でもその後も克樹さんと会話をすると決まってふたつの声が耳に届く。

 目の前にいるのは彼ひとりなのに、まるで克樹さんがふたりいるような錯覚を覚える。

 いつものクールで口数が少ない克樹さんと、おしゃべりで情熱的な克樹さんが一斉に話しているようなイメージ。

 もっと正確に言うと耳に届く声がクールな克樹さんで、情熱的な克樹さんの声は頭の中に直接響く声と言ったところだろうか。だから同時に話されても、どちらもちゃんと理解できるのだと思う。

 なぜこんなことになっているのか。自分はおかしくなってしまったのではないかと不安で、耳の検査をしてくれた医師に再検査をお願いしようかと考えた。

 でもこれって本当に耳の怪我や病気なのだろうか。素人考えでは違う気がする。ありのままを訴えたら頭の方の病気を心配をされてしまうのではないだろうか。

 変な人だと思われるかもしれない。

 夫が働く病院でそんな怪しい発言をして、変な噂になるのはまずい。

 結局不安が勝ってしまって、奇妙な声について未だ誰にも言い出せないままでいた。
< 18 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop